1. 「構想段階」という言葉は、定義されないまま使われている
現場では「まだ構想段階なので」「構想中の案件で」といった言葉が日常的に使われている。しかし、その指している範囲は人によって大きく異なる。
- アイデア出しの段階を指す人
- 方式検討まで含める人
- ベンダーに声をかける前の状態を指す人
共通しているのは、明確な定義が存在しないまま使われているという点である。この曖昧さが、相談や依頼、責任の所在を不明確にしている。
2. 設備導入プロセスを時系列で分解してみる
設備導入は、実際には次のような流れで進んでいる。
- 課題の発生・違和感の認識
- 解決の方向性を考え始める
- 方式・考え方の選択
- 仕様の具体化
- 見積・発注・製作・導入
一般に「設備導入」として語られるのは④以降であることが多い。一方で、①〜③のフェーズは正式なプロセスとして扱われにくく、まとめて省略されがちである。
しかし、意思決定の質を大きく左右しているのは、まさにこの①〜③である。
3. 構想段階とは何か（定義）
本コラムでは、「構想段階」を次のように定義する。
構想段階とは、 課題は認識されているが、方式・構成・仕様がまだ確定していない状態で、 解決の方向性を検討・比較・整理しているフェーズである。
この段階では、
- 図面は存在しない（または不要）
- 正解は一つに決まっていない
- 情報は断片的で、仮説ベース
という状態が前提となる。
4. 構想段階で行われているのは「判断の設計」である
構想段階は「まだ技術の話をする段階ではない」と誤解されやすい。しかし、実際に行われているのは次のような検討である。
- どの方式が現実的か
- 制約条件は何か
- リスクはどこにあるか
- 将来の拡張性はどう考えるか
これは詳細設計ではないが、後工程を大きく左右する判断の設計である。技術設計ではないが、極めて重要な仕事が発生している。
5. 構想段階は「誰の仕事か」が曖昧になりやすい
このフェーズは、生産技術・開発・調達・設備担当など、複数の部署にまたがることが多い。そのため、
- 明確な担当部署が存在しない
- 業務定義に含まれていない
- 個人の裁量や経験に依存しやすい
という状態になりやすい。結果として、相談が遅れたり、前例踏襲になったりする。
6. 構想段階を定義しないまま進めるリスク
構想段階が曖昧なまま進むと、次のようなリスクが生じる。
- 選択肢が最初から狭まる
- 比較検討が十分に行えない
- 後工程での手戻りが増える
- 「決めやすさ」が「良さ」を上回る
これは個人の能力の問題ではなく、構造として定義されていないことによる問題である。
7. まとめ
構想段階は、省略されがちではあるが、実際には確かに存在するフェーズである。定義されていないだけで、現場では多くの判断と検討が行われている。
この段階をどう扱うかによって、設備導入の質や選択肢は大きく変わる。まずは「構想段階とは何か」を明確に定義することが、次の議論の出発点となる。
